【不確かな時代の組織設計②】「人材ポートフォリオと人材供給元の多様性」

【不確かな時代の組織設計②】「人材ポートフォリオと人材供給元の多様性」

【不確かな時代の組織設計②】「人材ポートフォリオと人材供給元の多様性」

組織デザイン

「誰を採るか」から、「どこから、どういう契約でスキルを調達するか」へ

事業環境の変化スピードが著しく速くなった今、組織設計の常識そのものが問い直されています。そこで注目されているのが、「スキルベース組織(Skills-Based Organization)」という考え方です。

第1回の【不確かな時代の組織設計】スキル単位で組織を分解する時代にでは、では、組織設計の単位を「職務分掌」から「スキル」へと落とし込む発想を通じて、スキルベース組織の本質を整理しました。

前回文中で紹介された「買いたいケーキのイメージがあるのであれば、実際にケーキを見に行く」という例えのように、欲しいスキルのイメージがあるなら、まず市場を見て確かめる。これは、組織づくりにおける発想の転換でもあります。

第2回では、第1回の続編として、「スキルの調達方法」について、引き続きグローバル企業での人事・組織変革の経験を持つ南 知宏にインタビューを行い、人材ポートフォリオと人材供給元の多様性という視点から、これからの組織づくりを考えていきます。


南 知宏(みなみ ともひろ)略歴

南 知宏(みなみ ともひろ)略歴


ソレクティブ Business Design Director、TM HR Advisory & Coaching 合同会社 CEOを務める。DeloitteおよびSAPにてグローバル人事・組織変革コンサルティングに従事後、現在は日系・外資系企業の人材戦略・組織設計支援に取り組む。『グローバル企業のための新日本型人材マネジメントのすすめ』の著者。

まず「人材ポートフォリオ」を整理する

スキル単位で組織を設計した場合、人材ポートフォリオやスキル人材の供給元はどのように考えるべきですか?

南:まず前提として整理したいのが、「人材ポートフォリオ」という考え方です。

人材ポートフォリオとは、事業戦略を実現するために、どの部門・業務機能に、どのようなスキルを持つ人材が、いつ、どれだけ必要なのか、また現在どれだけ社内に存在するか、を可視化するものです。

たとえば、縦軸に営業・人事・財務・製造などの部門や業務機能を置き、横軸に戦略策定、データ分析、デジタルマーケティング、プロジェクトマネジメントなどのスキル領域やスキル項目を置く。その上で、それぞれの部門において、どのスキルを持つ人材が何人必要なのかを整理していきます。

一例として、2030年をひとつの目標時点とするなら、2030年に必要な人材数だけではなく、そこに至るまでに毎年どのスキルをどれだけ増やしていく必要があるのかを具体化する。これが、目指すべき状態である To-be(ありたい姿)です。

一方で、現在そのスキルを持つ人材が社内に何人いるのかを整理したものが As-is(現状)です。そして、As-is と To-be の差分が、人材ポートフォリオ上のギャップになります。

必要なスキルとそのスキル人材の数と現状とのギャップが明確になると、次に考えるべきことは、「そのスキルをどのような人材供給元から獲得し、どのような契約で活用するのが最も合理的か」という点です。

言い換えれば、人材ポートフォリオの整理によって見えたギャップを、どのような雇用形態で埋めていくのか。正社員として中途採用するのか、既存社員を育成・再配置するのか、あるいはフリーランスや外部パートナーの力を借りるのか。その組み合わせを設計することが、人材ポートフォリオの実現方法を考えるということです。

すべてのスキルを、無期雇用の正社員だけで担う必要はありません。スキル人材の獲得に必要なリードタイムが長めでかつ長期的に社内に蓄積すべきスキルは、採用や育成を通じて内製化する。一方で、速やかにスキル人材の獲得が求められる状況や必要な期間や工数が限られる業務においては、フリーランスや外部パートナーを人材供給元として活用することも有効な選択肢となります。

つまり、スキルベースで組織を考えるということは、「どのようなスキルが必要か」を定義するだけではありません。そのスキルを、どの人材供給元から、どのような契約形態・稼働時間・処遇で獲得するのか、まで設計し、経営的な視点で判断することを意味します。正社員か外部人材かを最初に決めるのではなく、業務の目的、期間、専門性に応じて、最適な担い手を選ぶ。この発想こそが、人材ポートフォリオの実現に向けた出発点になります。

【表1】人材の契約形態別:求められるスキルレベルや期間、工数の対比表


組織で求められるスキルの期間

スキル人材の獲得に要する期間

求められるスキルのレベル

求められスキルの工数(頻度)

求められるスキルの価格

市場における供給量

正社員

長期

長期

中〜高

高

中〜高

中

契約社員

中期

中期

低〜中

中〜高

低〜中

多

派遣

短期

短期

低

中〜高

低

多

ハイスキルフリーランス(個人)

短期

短期

高

低〜高

中〜高

中

ベンダー(コンサルファーム等)

ー(不要)

短期

高

高

高

少

(ソレクティブ作成)

多くの日本企業では、表の正社員のみで人材供給を考えることが多く見られ、残る4つの選択肢を含めて、検討する発想が十分に浸透しているとは言えません。しかし今後は、組織設計の段階から「どのスキルを社内に蓄積し、どのスキルを外部人材やパートナーと組み合わせるのか」を検討することが、人材供給のスピード、スキルレベル、コストの面で重要になります。正社員を前提にするのではなく、業務の目的や期間、専門性に応じて、最適な人材供給元を組み合わせる視点が求められます。

そのスキルは、どれだけの期間、どれだけの工数が必要かを考える

スキルベースで組織を考える中で、企業が「このスキルは必ずしも正社員でなくても担える」と気づいたケースはありますか?

南:あります。特に、新規事業の立ち上げや、外部環境の変化に対して、これまでの社内の知見や人材だけでは十分に対応しきれない領域では、その気づきが起こりやすいです。

事業戦略と人材戦略を照らし合わせると、「この領域は、これまでのやり方だけでは限界がある」と見えてきます。必要なスキルは分かっている。しかし、そのスキルを社内だけでまかなえるのかというと、必ずしもそうではありません。

そのときに考えるべきなのは、この記事の冒頭から話している「そのスキルは、どれだけの期間、どれだけの工数が必要か。その場合、どの雇用形態がそのスキルを確保する上で可能なのか」という問いです。たとえば、そのスキルがどれくらいのスピード感で必要なのか。正社員として採用する場合、どれくらい時間がかかるのか。そもそも自社のブランドや採用力で、そのレベルの人材をすぐに採用できるのか。一方で、コンサルティングファームに依頼するほどの規模や予算なのか。

こう整理していくと、「正社員採用では時間がかかりすぎる」「でもコンサルに依頼するほどではない」。ただ、事業の優先度としては高く、「この知見を早く社内に取り入れて、自社のケイパビリティにしていく必要がある」というケースが出てきます。

そういうときに、ハイスキルフリーランスの活用が選択肢に入ります。単に作業を外に出すのではなく、必要なスキルを外部から取り入れ、その人の知見や進め方を社内に移していく。そういう意味で、ハイスキルフリーランスの活用は、スキルを補完するだけでなく、社内の知見を増やしていくための現実的な手段になります。

外部のプロフェッショナル人材を活用して、社内の知見を増やす

「スキルを補完するだけでなく、社内の知見を増やしていく」とは、具体的にどういうことですか?

南:たとえば、私がご支援しているグローバルに展開するアウトソーシングサービス企業では、自社だけではまだ十分に経験がない領域に対して、外部のプロフェッショナル人材を入れました。目的は、単に人手を補うことではありません。自社でやったことのない業務を、まず外部人材の力を借りて立ち上げ、やり切る。その過程で、社内メンバーが外部プロフェッショナル人材からその領域や業務に必要な知見を学び、ノウハウとスキルを自社のものにしていくことでした。

ここで重要なのは、「今ある業務をただ回すだけではない」ということです。たとえば採用領域であれば、エージェントとのやり取りやデータ入力を代行してもらうだけなら、リソース不足の補完に留まります。それでは、時間が経っても業務そのものは高度化されません。

一方で、ハイスキルフリーランスが入ることで、「データをどう分析するのか」「その分析をもとに、次にどのような打ち手を考えるのか」「どういうフレームワークで判断するのか」といった知見まで、社内に蓄積されていきます。結果として、その企業の中に新たな機能を立ち上げることができます。

さらに、その知見を型化できれば、自社の業務を高度化するだけでなく、将来的には新たなサービスとして社外に提供していくこともできます。つまり、外部人材の活用は「今できないことを代わりにやってもらう」だけではなく、「今の自分たちの実力だけではやりきれないことを、外部の力を借りながら実現し、自社の能力に変えていく」という新しい機能創出の取り組みでもあるのです。

別の私の支援先の日系製造業のケースでも、同じようなことがありました。外部のプロフェッショナルが入ることで、人事制度の設計や中期経営計画の大幅な見直しなど、社内に無い知見や実践知が持ち込まれ、それを社内メンバーが学び、体現していく。自社だけでは進化しきれなかった領域に対して、外部の知見とスキルを取り込みながら、組織としてできることを増やしていくわけです。

つまり、「このスキルは正社員でなくても担える」と気づく瞬間は、単に人が足りないときではありません。必要なスキル、必要なスピード、社内に蓄積すべき知見、そしてコストを見比べたときに、「正社員採用だけではない選択肢のほうが合理的だ」と分かったときです。

スキルベースで組織を考えるということは、必要なスキルを定義するだけではありません。そのスキルを、どこから、どのような契約で獲得し、どう社内に活かしていくのか、までを細かく設計し、実現に向けて動き出すことです。

これまでの「普通」を疑ってみることから始めてみる

そうした時代に、CHROや人事は人事の考え方をどのように変えていくべきなのでしょうか?

南:まず必要なのは、これまで人事の中で「普通」だと思ってきたことを、一度疑ってみることだと思います。

たとえば、「必要な人材は正社員として採用するもの」だとか、「社内で育成するもの」だとか、「職歴が綺麗に積み上がってきた人しか検討しない」など、これまで通りの進め方や判断軸で良いのか、と自分に問いかけるべきです。もちろん、これまで通りの進め方や判断軸が有効な場面もあります。ただ、全く新しい機能を立ち上げ、経営に貢献するべく、スキルベースで組織を設計し、外部人材も含めて必要なスキルを獲得していく時代には、それだけでは限界があります。

だからこそ、CHROや人事には、これまでの人事の常識を問い直す視点が必要です。そのためには、人事の中だけでキャリアを積んできた人であれば、一度事業側に出て、事業で価値を生み出すことに全力を注ぐ。また、そのための人材マネジメントを現場で実践することも重要です。逆に、事業経験のある人が人事に入ることで、「なぜこの採用基準なのか」「なぜ正社員でなければならないのか」といった問いを、既存の人事メンバーに投げかけ、再考のきっかけを作ることもできます。

もう一つ重要なのは、世の中を知ることです。社内にいる人材だけを見ていると、自社の中にあるスキルや知見が基準になってしまいます。しかし、世の中には、特定領域で高い専門性を持つハイスキルフリーランスや外部専門家がいます。そうした人材を実際に見に行くことで、「このレベルの人材が外にいるのか」、「このレベルの人材なら、もっとこれくらいのことができる」と気づくことができます。

第1回で話したケーキの例えに近いですが、欲しいケーキのイメージがあるなら、いつも行っている店だけでなく、違うケーキ屋にも見に行く必要があります。人材獲得もケーキの例えと同じで、いつもと同じ採用市場だけを見ていては、本当に必要なスキル人材が市場にいない、と間違った思い込みをしてしまいます。

日本企業がもっと強くなっていくために。CHROが考えるべきこと

これからの人事は、外部のスキルや知見をどう社内に取り込むか、まで設計する必要があります。ハイスキルフリーランスや外部の専門家に単に業務を任せるのではなく、その人のノウハウや判断軸を社内に取り込み、会社の中に形式知として残していく。そうした新たな知見や機能の獲得手段をつくることが重要です。

これまでのやり方や日本企業を批判したいわけではありません。私自身はむしろ、日本企業にもっと強くなってほしいと思っています。そのためには、これまでの組織づくりの延長で考えるのではなく、必要なスキルを起点に、人材供給元を柔軟に組み合わせることが必要です。そして、社外にある実践知や専門性を取り込み、自社の機能や能力へと変えていく。その設計力こそが、これからのCHROや人事に求められる能力と考えます。

次回は、「これからの雇用はどうなるのか?『雇用しない経営』は成り立つのか」をテーマに引き続き南の話を聞いていきます。

執筆:岩井 エリカ

編集:今野三貴

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