人材活用のミスマッチを防ぐために。人材要件の確定に必要なステップ
人材戦略
はじめに:多くの企業は人材要件が正しく判断できていない
「営業マネージャーが欲しい」「デジタルマーケティングに強い人材が必要」。
日々商談を行うなかで、このようなさまざまの人材ニーズを多くの企業からお聞きします。しかし、詳しくお話を伺っていくと、企業側が欲しいと言っている人材要件と実際に必要な人材像が大きく異なるケースが少なくありません。
なぜこうしたギャップが生じるのでしょうか?これは要件を考えた方の能力や意欲の問題ではなく、自社の内側からだけでは見えにくい「構造的な課題」が存在するからです。
本コラムでは、自社に必要な人材を正しく定義するためのヒントをご紹介します。貴社が人材要件を考える際、どのような点に注意すべきか、ぜひ参考にしていただければと思います。
人材要件定義で陥りがちな3つの罠
企業が人材要件を定義する際、多くの場合、以下のような「よくあるケース」に陥っています。あなたの会社にも当てはまるものがあるかもしれません。
ケース1:「組織全体」や「市場」との客観的な比較の欠如
自社の強み・弱みを相対的に見られていないため、採用すべき人材の「真の不足点」が把握できていないケースです。
たとえば、社内では「マーケティングが弱い」と認識していても、実際には業界平均以上の水準にあり、本当に不足しているのは「データ分析力」や「新規チャネル開拓力」といった特定の機能だったりするケースはあります。組織内のスキルを過大評価したり過小評価したりすることで、必要な人材像がぼやけてしまうのです。
また、さらに理想的な要件を設定しても、それが現在の労働市場で現実的に採用可能なのか?さらに採用までにどれくらいの期間を要するのか?といった、「供給」側の視点が欠けていることもあります。「こんな人がいたら最高」という理想を掲げるものの、「実際に採用できる人材」の間には、しばしば大きなギャップがあることも少なくありません。
ケース2:「過去の成功体験」という名のバイアス
「前任者はこういう人だった」「以前、優秀だった○○さんのような人が欲しい。過去の成功イメージに引っ張られ、将来必要とされる姿を見落としてしまうケースもよく聞かれます。
5年前に活躍した人材のスキルセットが、今後の事業環境でも最適とは限りません。市場環境は変化し、企業の戦略も進化しています。にもかかわらず、客観的な視点を持てないまま、「今の課題」と「将来の戦略」を混同してしまうということはしばしば見られます。
過去の成功体験は貴重な財産ですが、それがバイアスとなり、未来に必要な人材を見誤ってしまっては本末転倒です。
ケース3:現場の「主観的・感情的な要望」の先行
現場から上がってくる要望は、「とにかく忙しい」「早く補充したい」といった感情的なものになりがちです。しかし、これは現場が悪いわけではなく、日々の業務に追われる中で、自分たちの課題を構造的に整理し、言語化する余裕がないためです。
本来は、そのポジションの「課題の質」や「ミッションを再定義すること」が必要です。しかし、そうした壁打ちをする余裕がないまま、「即戦力」「経験豊富」といった漠然とした要件で採用を進めてしまい、結果としてミスマッチが生じてしまいます。
実例で見る人材要件のミスマッチ:外資系コンサル出身の経営企画の場合
ここで、よくある採用の失敗事例をご紹介します。
ある成長期のベンチャー企業が、経営企画部門の責任者を採用しました。外資系戦略コンサル出身で、大手企業での経営企画経験もあり、市場への洞察も深く数字も強い。「この人なら事業を次のステージに引き上げてくれる」と、経営陣は確信しました。
しかし入社後、ギャップが露呈します。美しい戦略資料を作るものの、現場は「明日から何をすればいいのかわからない」と困惑。「前職では」「コンサル時代は」という言葉が会議で増え、現場との溝は深まるばかり。半年後、優秀なマネージャー数名が退職し、本人も「もっと戦略的な仕事がしたい」と去っていきました。
何が間違っていたのでしょうか?採用時に企業側が期待したのは「今ある事業を改善する推進力」だったのに、この人の強みは「ゼロから戦略を描き経営層へ提言を行う」ことだったのです。華麗な経歴に目を奪われ、「自社の今のフェーズに必要な機能」を見失った結果でした。
正しい人材要件を導くための「壁打ち」に必要な3つの視点
では、どうすれば正しい人材要件を導き出せるのでしょうか。ここでは、自社内だけでは限界がある3つの重要な視点を紹介します。
視点1:経営戦略からの「構造的な逆算」
現場の「今、困っている」という要望から出発するのではなく、3年後の事業計画を基に「組織に足りない機能」を構造的に洗い出していくアプローチです。
たとえば、「サブスクリプションモデルへの転換」という事業戦略上のイノベーションを想定しているなら、必要なのは単なる営業担当ではなく、「顧客生涯価値を最大化する設計ができる人材」かもしれません。あるいは、「新規事業の立ち上げ」を控えるなら、「0→1を作れる起業家マインドを持つ人材」が求められるでしょう。
重要なのは、その人材の「役割」と「期待する成果」を明確に定義することです。しかし、これは一人で考えて答えを出すのは難しい作業でもあります。経営戦略と現場の日常業務の間には距離があり、その橋渡しができる客観的な視点が必要になります。
視点2:スキルとコンピテンシーの「客観的な分離」
知識やスキルだけでなく、「自社の文化に合う行動特性(コンピテンシー)」を言語化し、評価基準として設定できているかという視点です。
たとえば、同じ「マーケティングマネージャー」でも、スタートアップには「不確実性の中で仮説検証を高速で回せる人」が必要ですし、大企業には「多様なステークホルダーを調整しながらプロジェクトを推進できる人」が求められます。
「優秀な人」という抽象的な基準ではなく、当社の課題を解決できる「一機能」として人材要件を定義する。これも、内側からだけでは見えにくい視点です。自社の文化や行動特性は、組織の中にいるとあまりにも当たり前すぎて、かえって言語化が難しいからです。
視点3:「理想」と「採用市場」の「現実的な調整」
設定した要件が市場でどれだけの希少性があり、どのような待遇が必要か、データに基づき判断できているかという視点です。
「英語ネイティブレベル、MBA保持、業界経験10年以上、マネジメント経験あり」といった条件を並べていくと、採用できる人材は極めて限定的になり、かつ高額な報酬が必要になります。高すぎる理想は、採用失敗の元です。
ここで重要なのは、「MUST(必須条件)」と「WANT(あれば望ましい)」の境界線を、外部視点で引くことです。すべてを満たす人材は本当に必要なのか?またMUST条件を満たしていれば、進めたいことは推進できるのか?この判断には、市場データと採用の現実を知る客観的な視点が不可欠です。
ソレクティブが実施しているディスカッションの内容
必要な人材要件をどのように掘り下げていけばよいのか?そのヒントとして、この章ではソレクティブで実施しているコンサルテーションの内容を少しご紹介します。想定している人材要件の確認に加えて、会社の将来像や事業の展望など、人材要件に限定されない内容をヒアリングすることで、より必要とされる人材像が明確になります。
新規事業立ち上げシーンの人材のケース 質問一例
現在の事業内容と今後の展開として考えていること
現在の課題としてわかっていることはあるか?
これまで誰がその業務をリードしていたのか?
求める人材がなぜこのタイミングで必要なのか?
関わる人材は誰で、どんなバックグラウンドを持っているのか?専門領域は?
外部人材を今回活用する際に、どんなシナジーを期待しているのか?
人材要件を確認するためにこんなことまで考慮するの?と思われるかもしれませんが、より解像度を高めるためには、事業全体視点からの考察が必要となります。
ソレクティブにご相談いただくのは、新規事業立ち上げ、リブランディングなど、部門横断的なプロジェクトをリードできる人材であるケースも多いのですが、そういったプロジェクトの要になる人材だからこそ、こうした設問で明確に言語化するプロセスが必要だと言えるのです。
ソレクティブが実施するヒアリング内容
自社でこうした視点を持って人材要件を定義できれば、社外のサポートは必要ありません。しかし、日々の業務に追われる中で、客観的な視点を保ちながら構造的に整理することは、なかなか難しいのが現実です。非常に優秀で文句のつけようのない経歴でも、期待値と異なる「機能」を有した人材なら、貴社の期待には応えられないケースも少なくないのです。
自社の未来を左右するような重要な役割を担う人材だからこそ、プロの視点を取り入れ、「正しい一歩」を踏み出しませんか。ソレクティブは、あなたの会社の戦略的な人材活用を、客観的な視点を持ち合わせた外部のプロフェッショナルとしてご支援します。
