人材戦略

人材不足や専門性の高度化が進むなか、企業にとって「必要なスキルをどう確保するか」は大きな課題です。その答えの1つとして、自律的に仕事を進められる独立人材を組織に採り入れるという選択肢が注目されています。
自律型の独立人材が組織にもたらす価値とは何か。そのヒントが、タニタ社の「日本活性化プロジェクト」にあります。2017年にスタートしたこの取り組みは、希望する社員が雇用契約から業務委託契約に切り替え、「個人事業主(フリーランス)」になって働く仕組みです。独立し、「日本活性化プロジェクトメンバー(以下、活性化メンバー)」に移行した人は、退職後も従来の仕事を続けながら新たな仕事にも挑戦できるのが特徴で、現在も本社の2割弱にあたる約30人がこの形で働いています。
プロジェクト開始から約9年。運用を通じて見えてきたのは、独立人材が組織にもたらすいくつかの価値でした。同プロジェクトの設計から携わり、自らも独立してタニタの経営戦略本部社長補佐を担う二瓶琢史さんに話を聞きました。
二瓶 琢史 にへい たくし
株式会社タニタ 経営企画部 社長補佐/合同会社あすある 代表社員
自動車メーカーを経て、2003年にタニタ入社。2010年から人事課長、2011年から総務部長として同社の人事業務に携わる。2016年に「日本活性化プロジェクト」に着手し、2017年には自らも活性化メンバーとして独立。現在は個人会社化し、タニタ以外の企業でも同プロジェクトを推進する。
「雇用にとらわれない」発想で、優秀な人材を確保
― 改めて「日本活性化プロジェクト」はどのような背景からスタートしたのか教えてください。
出発点は、「タニタに貢献してくれる社員にどう報いるか」という問いでした。
給与を上げるにも既存の人事制度では限界があり、役職も無限に用意できるわけではない。でも、自分の裁量で新たな仕事に挑戦し、自立して働けるようになれば、もし会社の業績が厳しくなっても、退職という形で優秀な人材が離れる事態を避けられるのでは、そんな思いもありました。
― 当時としてはかなり思い切った取り組みだったと思います。こうした新たなプロジェクトを生み出す土壌はあったのでしょうか。
二面性があると思います。タニタはもともとシガレットケースやライターなどを作る金属加工メーカーから、体重計といった「はかり」に事業転換してきた会社です。プロジェクト発案者の社長の谷田も、常に「変化し続けることが大事」と言っており、そうしたDNAは会社の根底にあると思います。
一方で、計量法に基づくモノ作りを続けてきた会社なので、文化としては慎重で保守的な面もあります。安定と挑戦、その両方の精神を持つ会社だからこそ生まれたプロジェクトだと感じます。
― プロジェクトはどのように動き出したのでしょうか。
実質的なリストラ策と受け取られかねないので、まず私自身が手を挙げました。立ち上げた本人が動かないと、誰も信用しないだろうと。
それに、もし自分が尻込みして「来年どこかの会社が似た取り組みを始めたら絶対に悔しいだろうな」という気持ちもありました。新しいことをやるなら自分たちが先にやりたい。そういう気持ちは、社長もかなり強いですから。
後日説明の場を設け、そこから初年度の8人が手を挙げました。職種も年齢もさまざまで、強いて言えば、技術系はさらに専門性を深めたい人、営業や事務系は発想が柔軟な人で、どちらも「自分で考えて動きたい人」が多かった印象です。

独立人材ならではの視点や経験が組織のメリットに
― 実際にスタートして、組織にどのような変化が生まれましたか。
わかりやすく表れたのが、専門性を部署の枠を超えて活用できるようになった点です。
社員の場合、所属部署以外の仕事に関わろうとすると、上長がストップをかけることがあります。一方、業務委託という形であれば、必要とする部署が直接仕事を依頼できます。
たとえば、開発部門で統計処理を得意とする「活性化メンバー」は、開発業務に加え、営業部門のデータ分析や販促資料の作成も手がけるようになりました。会社としても、必要なスキルを必要な場面で活用しやすくなったと感じます。
― 専門性を広く発揮できることは、本人にも会社にとってもメリットがありますよね。
まさにそうです。加えて、独立した人材を見ていて強く感じるのは、仕事を「自分ごと」として捉える姿勢です。
象徴的だったのが、セガ社と協業したエピソードです。社長がかつて熱中したアーケードゲームの新作が家庭用ゲーム機で発売されることになったのですが、専用コントローラーは商品化されないと知った社長が「ぜひタニタで作りたい」とセガ社にアプローチしたのです。
当然社内の反応は、「なぜタニタがゲームコントローラーを?」と。本業とは異なる新規事業かつ専門外のテーマなので、「誰が担当するの?」と社員が戸惑うのも自然なことです。
一方で、このプロジェクトを引き受けた「活性化メンバー」は違いました。ゲームの知識もほとんどない状態から、自らゲームセンターに足を運んで研究し、クラウドファンディングで資金を集め、商品化までやり遂げたのです。その後はゲームイベントに発展し、タニタのファンコミュニティ作りにもつながっています。
業務命令でやる仕事と「自分の仕事」として捉えるのとでは、向き合い方がまったく異なるのを実感しましたね。独立人材が組織にいると、従来なら前に進みにくかった仕事が動き出すことがある。それがこの取り組みを通じて得た、独立人材が組織にもたらすメリットの1つです。
― ほかに、想定外だったメリットはありますか?
以前、「個人事業主(活性化メンバー)になってよかったこと」をアンケートで聞いたのですが、1位は「時間や場所の自由度が増えた」で想定どおりでした。2位は収入面を予測していたのですが、「知識や視野が広がった」が非常に多く、正直意外でした。
私自身、人事として10年以上は働いてきましたが、働き方といえば「雇用」が前提でした。独立後は社外の仕事や中小企業の経営者と関わる機会が増え、これまでとは異なる組織課題や働き方に触れるようになりました。そうして外で得た視点や経験が、タニタの仕事にも還元されていく。この循環こそが、独立人材が組織にいる価値だと思っています。
大事なのは独立人材が安心して力を発揮できる環境づくり
― 独立した人材との仕事をうまく機能させるうえで、最初にぶつかった壁は何でしたか。
独立した人材と仕事をするとなると、管理職や役員層が最初に抱く不安があります。「指示が通じないのでは」というものです。乱暴な言い方にはなりますが、雇用関係であれば指揮命令を出すことができても、業務委託となるとそうはいきません。これまでのマネジメントの前提が変わるので、その戸惑い自体は理解できます。
だからこそ、管理職には「独立人材に対して、上司だから従えという関係は通じない」と繰り返し伝えていきました。実際には、相談やすり合わせを重ねながら進めるので、大きなトラブルは起こっていません。バッジや肩書きで動かすより、目的を理解して自分で考えて動く人材の方が、組織にとって本来ありがたいはずです。
― 関係性を築くために、どのような工夫をされたのでしょうか。
大きく2つあり、1つは契約設計です。一般的な業務委託契約は1年更新が主ですが、このプロジェクトでは基本的に1年ごとに3年契約を更新することで、常に2年以上の契約期間が残る仕組みにしています。
独立人材に能力を十分発揮してもらうには、安心して挑戦できる環境が必要です。契約が毎年続くかわからない状態では、力を発揮しにくい。短期的な成果ではなく、長い目で関係を築くことを前提にした設計です。
もう1つは運用面です。個人事業主のメンバーへの発注権限は部長以上に限定しています。現場が個別に依頼を出すと、業務量や報酬の管理が難しくなるだけでなく、指揮命令との境界線も曖昧になりやすいためです。
そのうえで月に1回、発注権限を持つ管理職が集まる会合を設けています。各活性化メンバーの業務内容や成果を共有しながら、関わり方のノウハウを組織全体で蓄積していくイメージです。
― 一緒に仕事をするうえで「やってはいけない」と感じたことはありますか?
勤怠管理ですね。出社時間の指定や、一方的な配置転換もNGです。
実は最初、私自身も慣れで勤怠管理を前提とした業務委託契約書を作成しようとして、弁護士に「それは指揮命令にあたる」と止められました。業務委託である以上、仕事の進め方は本人に委ねることが前提です。
ただし、連絡がつく状態を保つことは契約上も明記しています。逆に言えば、日常的に相談しながら進めていけば、細かく管理しなくても仕事は回ると考えています。
― 契約を更新していくうえで、メンバーへの評価はどのように行っていますか。
一律の評価システムはありません。発注権限を持つ部長や役員と、メンバー本人との1対1の対話のなかで、成果や次の契約内容を決めます。
また、成果だけでなく「この人と今後も一緒に仕事をしたいか」も含めて判断しています。
業務委託に対し、コスト面のメリットに注目する企業もあるかもしれませんが、それを目的にすると長続きしません。「会社に貢献してくれる人と、どうすれば長く一緒に働けるか」、その考え方の延長線上に、契約や評価のあり方もあると考えています。
「自分で考えて動く独立人材」が組織の未来を支える
― 近年はジョブ型雇用やスキルベース型組織など、さまざまな組織論が語られています。今後、タニタはどのような組織を目指していくのでしょうか。
正直なところ、分類にはあまりこだわっていません。大事なのは制度や型ではなく、新しい取り組みに挑戦し続ける姿勢だと感じます。
私が理想だと思うのは、トップの目指す方向を理解し、それぞれが自分の持ち場で主体的に動く組織です。ただ、雇用関係のなかにいると、どうしても「言われた仕事をやる」意識になりやすい。
個人事業主として関わる活性化メンバーを見ていると、自分の仕事として責任を持つ分、自然と経営者に近い視点になるように感じます。そうした人材が組織にいることは、会社にとって大きな力になると思っています。
― 最後に、これからの組織作りで大切なことは何だと思いますか。
新しい取り組みに挑戦するとき、まずトップが「どうしてもやりたい」と思えるかどうか。そして、実際に動かす人がいるかどうか。この2つがあれば、形はどうであれ継続性は出てきます。
ときには社内外から「リスクがある」「前例がない」といった声が上がることもあるかもしれません。大切なのは、能力や意欲のある人が力を発揮できる関係をどう作るかです。その発想こそが、これからの組織づくりの第一歩になるのではないでしょうか。
執筆:Shinobu Takayama
編集:Yuna Park
